出国&第1週


17/Jul/99 (Sat) 晴

福岡空港への集合時間は早朝6:25だった。時刻表とにらめっこした結果、地下鉄千代県庁口駅5:37発に乗らなければ次の電車では間に合わない事が判明。これだと早く着き過ぎるのだが仕方がない。重たいスーツケースを引き摺りながら駅まで歩いていった・・・が、時間にルーズな性格がたたって、いつものように遅れてしまい5:37発に乗れなかった(爆) この忌むべき性格は渡英中もたびたび自身を悩ます事になる。

地下鉄を諦めてタクシーを拾う。こんな事なら家の前から乗ればよかった、と心の中でボヤきつつ。空港まで15分程しか掛からなかったので地下鉄で行くより更に早く着き過ぎ、手持ち無沙汰だったのでロビーで仮眠する。前夜は荷造りが終わらず徹夜だったのだ。

集合時刻になり航空券・保険手帳、それにLecture Courseの予習用テキストを渡される。成田からLondon・Heathrow空港までの航空券を見ると席が59Aだったので窓際と確信。問題は翼の上かどうかだな、などと考えながらふと周囲を見ると他のQ大生は大抵友人同士で来ているようだ。こっちは一人なので少々寂しい。福岡から成田までの機中は徹夜明けのせいもあって完全に爆睡。気付いたら成田だった。

長蛇の列で待ち時間がうんざりするほど長かった出国審査を終え、空港内で英ポンドに両替する。飛行機の席は結局翼の後だったので景色もよく見え満足。最初の機内食は和洋選べたが、これで食べ納めになるだろうと考えて和食を選んだ。ロシア上空を通過する時、シベリアの針葉樹林タイガがよく見えた。冷戦時代は西側諸国の飛行機はソ連上空を飛ぶ事ができなかったが、現在は北回り航路が普通に利用されている。

窓から憧れのGreat Britain島が見えてきた時はさすがに感動した。最初は田園風景しか見えなかったが、Heathrow空港に近づくにつれてビル群が増えていくのが分かる。空港に着いて入国審査場に向かったが、団体なので全く何も質問されず、やや拍子抜けした。空港内は様々な国籍の人でごった返しており、まさにmelting pot(人種の坩堝)状態。

空港から一歩外に出ての感想は「何だ、思ったより暑い」。北海道か長野の高地のようなひんやりした気候を想像していたので、今日はきっと例外なんだと自分に言い聞かせたが、それは甘い考えだった。これから1ヶ月間この熱射と付き合う事になる。

貸し切りバスでCambridgeへ。Motorway(高速道路に相当)を走っている間、英米を比較してみた。まず米国のFreewayと違ってCarpool Laneがない。高速のすぐ側で柵らしい柵もなく羊を放牧している。山がなく一面なだらかな丘陵が広がっている。そしてLos Angelsと大きく異なり日本車がほとんど走っていない。

Cambridgeに到着し、早速建物群の醸し出す雰囲気に圧倒される。Pembroke Collegeの第一印象は緑豊かで、よく手入れされた芝生が美しく、何より歴史ある棟々が静かに佇立している様がいい。ここで1ヶ月間英語を勉強できるのだと思うと期待に胸が高鳴った。

Thomas Gray Roomという、壁のあちこちに肖像画が懸かり間接照明のみ用いられている如何にも洋館らしい部屋に案内され、簡単なガイダンスと1ヶ月間Student Tutorとして付いてくれる3人のCambridge大生、Matt・Pete・Jodieの紹介を受けた。その後各人のルームキーを受領。それにしても擦り減った階段の手摺りといい、Clock Tower(←知る人ぞ知るゲーム)に出てきそうなこの部屋といい、今自分は英国にいるんだという実感がしみじみ湧いてくる。

部屋はどちらかというと狭い部類で、しかも1階なのでやや不本意。しかしベッド・机・クローゼット・洋服ダンスと設備は整っている。早速クローゼットとタンスの間に持参したヒモを渡し、物干しを作った。チューターによる案内が始まるのを待っている間、芝生横の木陰にある古びたベンチに座り、時が止まったかのような静寂と穏やかな気候の中、風にそよぐ木々の梢や芝生を眺めながらぼーっとした。このような時間こそ、汝の英国に望んだ刻ではなかったか?  このような空間こそ、汝の英国に望んだ雰囲気ではなかったか?  しばらく充足感に包まれていた。

チューターからPembroke Collegeの案内を受けた後、キャンパスの外のパブへ。それにしてもこの近辺の最も古い建物で14世紀の築というから恐れ入る。パブではビールを1パイント注文し、小銭を作る為に£20を出したがやや恐縮。皆なビールやウイスキーをtake outし、Cam川沿いの公園でPeteとMattを囲んで暫し談笑。周りを見ると週末の夜という事で大勢のCambridge大生が集まっていた。両チューターに英語で幾つか質問し会話してみたが、二人とも早口なのでついていくので精一杯。果たして帰国前までにこの会話速度に到達できるのだろうか?

日が落ちるのは遅く22時を回っても空に青さが残っていたが、気温はぐんぐん下がり、ビールの冷たさと相まって震えが起こるほど。夕暮れ以降は長袖を着なければならぬとの教訓を得た。

明朝は早起きの必要なしとの事なので、熟睡して疲労回復しよう。


18/Jul/99 (Sun) 晴

9:10に目が覚めたが、床を離れたのは9:50。早速シャワーを浴びるが半畳程の広さしかなく実に使いづらい。外国人(尤もここでは我々が外国人だが)は日本人より体格が大きい筈だから余計不便ではないだろうか。

11:30からのブランチ前に芝生でチューターのMattに新聞を見せて貰った。当然の事ながら日本のプロ野球の結果は載っていない(笑) それにしてもMattの英語は早口で聴き取るのに苦労する。しかもコクニー(London訛り)なのかMondayをモンダイと発音していた。

食事はバイキング形式で取り放題。食事中、一見黒いバターのようなmarmateという非常にまずい物体に出会った。早速近くにいたチューターのJodieに尋ねると、これは酵母でごくごく薄くパンに塗って食べるものだと説明してくれた。Jodieは最後に顔をしかめながら"I hate it!"と付け加えたので皆な大爆笑。

食事後、T君とD君と3人でGrafton Shopping Centreに向かった。折角だから日本語を使うのはやめようと云って道中奇妙な英語で会話しながら歩いた。スーパーマーケットを期待していたのに同センターはむしろ専門店街に近いもので、結局何も買わずに帰って来たので単なる散歩に終わってしまった。しかも14:00からのチューターによるCambridge散策ツアーに遅れて置いて行かれるというオマケ付き。探して合流しようと歩いていたら駆けて行くJodieを発見したのでこっちも走って追いかけた。日差しも強く日本だったら汗だくになるところだったが、意外にも一滴の汗もかかなかった。これが湿度の違いって奴かと妙に納得してしまった。

夕食後、時差ボケのせいか猛烈に眠くなってきたので仮眠する。T君とD君に21:30からパブに行こうと約束していたので迎えに来たが、やはりかなり眠い。正直云ってパブで飲める状態ではなかったがとにかく外に出る。チューター軍団はあいにく忙しそうだったので3人だけで出たが、結局これも散歩に終わってしまった。今日はよく街をうろつき回った一日だった。

それにしても日曜だったせいか実に観光客が多かった。自分達もそう見られていたのだろうか? いや違う、我々は観光ではなく英語の勉強に来たんだとの自負がむくむくと心に浮かんでくる。


19/Jul/99 (Mon) 曇

8:30に朝食を摂った後、9:00からH教授とGideonによる簡単なガイダンスがあり、10:00からチューターによる図書館とPCルームの案内があった。11:00からのTea Time後、恐怖(?)のクラス分けPlacement Test。listeningは聴き取れない部分が何ヶ所もあった。

昼食後、早速図書館に行ってみる。外見は教会風で、らせん階段も窓も壁も実に趣きある古い造りになっていて長い歳月を感じさせるのだが、入室にはセキュリティカードを使用する。この新旧のミスマッチが面白い。入ると内部は厳粛な雰囲気。高い天井、木製の書架、窓の前の胸像、物音一つしない静寂、どれを取っても襟を正さずにはいられない何かを感じさせる。

14:00からPuntingと称するCam川下り。Cambridgeという地名自体「Cam川に架かる橋」に由来し、Puntingではそれらの美しい橋を次々とくぐる事ができる。数学橋、King's橋、Clare橋、Trinity橋、ため息の橋、等々。そして川の両側に並ぶCollege群の眺めも格別だった。中でも圧巻はCambridgeの象徴ともいえるKing's Collegeの大聖堂。Backsと呼ばれる広大な芝生、川を行き交う舟、水面に枝を垂れる樹々、川岸に寛ぐ人々、美しく歴史ある建物群・・・こんな光景はとても日本では味わえないなと思いながら、舟上にてそれらをぼーっと眺めていた。2時間も堪能して料金は一人当りたったの£1.50。安い。ただ後半はずっとオールを漕いでいたので少々疲れた。

18:45からWelcome Party。教官も学生も皆な正装してのDrink Partyで、場所はLibrary Lawnという図書館前の芝生。ワインを2杯頂く。19時前といっても陽は高く、風も爽やかで心地よい。

その後19:30からFormal Hallと呼ばれる正装しての正式な晩餐会が催された。開始前に全員起立し、High Tableと呼ばれる上座にいるガウンを着た人達の一人がラテン語で祈りを捧げる。実に厳粛な雰囲気で、このような晩餐会は日本にいたら一生体験できなかっただろう。

食事中、向かいの席のChrisから自分がCクラスに入った事とC・DクラスはChrisが担当である事を告げられる。全部で5クラスあるが別に成績順ではなく均等に振り分けられているらしい。Cクラスは12人で男5女7だそうだ。更にChrisは福岡に3年ほど住んでいたらしく、福岡の話で盛り上がる。

Formal Hall終了後、最後の週末旅行で行く予定のIrelandのDublinへの往復航空券が届いていたので受領する。これでひと安心、無事届いて良かった。Formal Hallでもワインを飲んだが、アルコールが強かったのか身体が疲れていたのか、或いはその両方か、酔いが回るのが早かった。


20/Jul/99 (Tue) 曇のち晴

朝方少しだけ雨が降った。初雨。9:00~11:45までLanguage Courseの初授業。最初は型通りというか自己紹介と他己紹介だった。ChrisはCambridge大を卒業後、壱岐島の某高校で1年間英語教師を勤め、その後福岡市内の語学学校で英語講師を2年ほどしていたらしい。専門は言語学で、ヒーブルーを専攻していたと云う。ヒーブルーって何だ?と思っていたらホワイトボードにHebrewと書いてくれ、ようやくヘブライ語の事だと分かった。彼はよく話を脱線させるがそれも楽しい。

ちなみにここでの授業はLanguageとLectureの2コースがあり、前者は全員が5クラスに均等に分かれ、後者は文学・歴史・建築のうち好きなコースを選ぶ。自分は文学を選んだが、後日Iさん(日本人チューター)から「文学を第1希望にした男は君だけだったよ」と云われた。

昼食後、絵葉書を探す為と街に慣れる為にD君とY君と散歩に出た。Pembrokeの絵葉書を探したが無かった。PembrokeはCambridge大学で3番目に古いCollegeとはいえ、やはりKing's CollegeやTrinity Collegeと比べるとマイナーなのかも知れない。

あと安い水を求めて色んな店に入った。そしてついにSidney Streetの"Sainsbury's"というスーパーマーケットで£0.26という格安の水を発見。2リットルで50円だから恐いぐらい安い。ラベルの注意書を読むと3日以内に飲む事と書いてある。殺菌が不十分なのだろうか?

15:30から記念撮影。16:30~18:00までLecture Courseの初授業。担当講師はGideonで、彼のジョークやオーバーアクションは本当に面白い。内容も良かったので今後の授業も楽しみ。


21/Jul/99 (Wed) 曇ときどき晴

今日の授業は昼からだったので遅目に起きた。15:30に授業が終わった後、絵葉書を出す為に郵便局を探しに街へ出たが道に迷ってしまった。後から地図で確認すると相当遠回りをしたらしい。途中、Cambridge大学の最高峰であるKing's Collegeにも立ち寄った。

その後、初めてBacksを散策。Cam川沿いにある各Collegeはいずれも川を挟んで広大な芝生を有しており、それらをBacksと呼ぶ。芝生といっても大抵立入禁止で、純粋に鑑賞用となっている。Cam川越しに見るKing's Collegeの大聖堂は何度見ても壮観だし、Trinity Collegeの裏門に通じるThe Avenueという巨木の並木道も良かった。その並木道を通って川沿いのベンチに腰を下ろし、行き交うPuntingのボートを眺めながらShakespeareの「お気に召すまま」(As you like it.)を読んだ。

20:00~22:30まで観劇。Park Streetにある"ADC Theatre"という劇場で、タイトルはOscar Wilde原作の"The Importance of Being Earnest"。学生料金で£5。出演者は皆な早口で、暑い・眠い・話が全く分からないの三重苦だったが、まぁ雰囲気だけは楽しめた。でも英国人達が一斉に笑う場面で何がおかしいのかちっとも分からないのが悔しい。


22/Jul/99 (Thu) 曇ときどき雨

今日は朝から曇天で時折雨が降った。といっても日本のような雨ではなく霧雨に近い。実に英国らしい(と普段我々がイメージしている)天気で、街並みが霧に煙り情緒がある。

午前中のLanguage Courseは"Cambridge Practical Tour"で、Chris引率のもとCambridgeの街を歩いて銀行・スーパーや学生ご用達の店等を案内してもらった。歩いている途中でも断続的に雨が降り、その度に傘を開いたのだが、地元の英国人達はお構いなしといった感じで傘も差さずに濡れるに任せている。まるで生まれてから一度も傘なんか買った事がないかのように(笑) 英国人は傘を差さないと聞いていたが、どうやら本当らしい。

20:00からチューター軍団主催によるWelcome Party。タイトルは"Gangstars and Molls"。Mollは辞書に載っていなかったのでMattに意味を尋ねたら、女性版ギャングの事だと教えてくれた。最初Mattは水鉄砲を持って歩いていたので一体どんなパーティーになるのか戦々兢々としていたが、実際は優雅(?)なワインパーティーだった。

その後College内にあるPubに行き、ビールを注文。結構ワインを飲んでいたので最初は半パイントを頼んだのだが、Pubのおやじに「男なら1パイント飲め」と怒られてしまったので(笑)、1パイントにした。ビール片手に0:00過ぎまでJunior Parlourでダベる。英国まで来て日本人と日本語ばかりで話すのは確かに問題があるけど、今まで見ず知らずだったQ大生達と知り合いになり、お互いの事を話すのはやっぱり楽しい。それでも日本語を使うのは時々にして、気持ちの上ではなるべく日本語を使わないようにと自制していた(つもり)。

ちなみにJunior ParlourはJPと略し、Q大生への告知板やビリヤード台・自販機等がある憩いの場。1日最低1回はここに来て新しい告知があるかどうか確認する必要があった。

さて、明日はどうしようか。本当は明日の夕方からLondonに行きたいけど何の予約も準備もしていない。


23/Jul/99 (Fri) 晴

久々に気持ちの良い青空。しかし3日連続で朝食を摂らず寝過ごす。う~む。授業は12:00からだったが午前中一杯課題に追われた。というのも昨夜はWelcome Partyがあって予習どころではなかったので。

16:00にLecture Courseが終わった後、明日のLondon行きのバスを予約する為に街に出た。バスステーションはすぐ分かったが、予約センターがどこか分からず散々探した。何しろ場所を尋ねるたびに人によって云う事が違うので困った困った。 というか多分正しい場所を云ってくれてるんだろうけど、listening力不足で違う事を云っているように聞こえたのだろう。さてようやく見つけたまではよかったが、パスポートを忘れたのでT/Cが使えなかった。噂とは違ってISICのカードを見せても駄目だった。

この週末は最初はLondonのB&B(Bed & Breakfast)を利用して1泊2日で行く予定だったが、CambridgeからLondonまでは電車で1時間、バスで2時間と意外と近い事が分かったので、結局土・日とも日帰りにした。泊まるとなると宿代がかかる上に着替えや洗面用具も持って行く必要があるので面倒。電車よりバスの方が安いし駅よりバスステーションの方が断然近いのでバスで行く事にし、時刻表とにらめっこした挙句にCambridge6:30発・London20:30発の便に決めた。往復で£8。

16:30からのLanguage Courseの授業は天気が良かったので全員芝生に出てdiscussion。抜けるような高い青空と歴史ある建物と緑の美しい芝生と時間が止まったような静寂と・・・実にcomfortableなひととき。

夕食後、20:30~21:30までKing's CollegeのBacksで自分を含め7人でフリスビーをした。Cambridgeの象徴ともいえるKing'sのBacksでフリスビーに興じるなんて実に優雅で、日本ではとても考えられない事。こっちは陽が高いので21:00を過ぎても全然明るい。

部屋に帰ってから週末のLondon旅行の計画を練った。まず絶対行きたい場所をリストアップし、それらの開場時間・入場料金・最寄り駅等を調べた。日曜は閉まっている所も多いので、それらは土曜に回した。夕方早目に閉まる所を優先的に周る事にし、大まかなルート設定をしてみた。と云っても移動時間や所要時間が分からないので、作戦としては土曜にできるだけ多くの場所に行く事にして、行き残した所を日曜に拾って回るという風にしてみた。中でも大英博物館には比較的多くの時間を割きたかったので、日曜の最後に行ってその日の残り時間を全てつぎ込む事にした。

さあ明日はいよいよLondon、憧れの都市Londonだ。



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